はるきくんのおとうさん
はるきくんのおとうさんは
神出鬼没。
学校生活のどんな場面でも突然あらわれて
「コラーっ!」
って怒鳴ったから、わたしは
はるきくんのおとうさんの登場を心から怖れていた。
「なんでおとうさんくるのかな?」
「いじめられてないかどうか見にきてるみたい。」
「ふーん。」
高3の夏休み、
自転車に乗って小学校の友達が家に来た。
「来る時さー、はるきくんに会ったんだよ。
今から仕事に行くんだって言ってた。
大工さんになったんだよ。お父さんと同じ。
『どこに行くの?』って聞かれたから
『今からゆうちゃんちで受験勉強するんだー。』って言ったんだ。
そしたら『そうか、頑張って!』って。
何か大人って感じ。
・・・・・・。
はるきくんのおとうさんってさ、すっごく良いお父さんだったね。」
「うん、そうだったね。怖かったよね。ふふふ。」
わたしたちは運動会の訓練の成果で
右にも左にも、前にも後ろにも
ほんの少しもはみださずにきちんと整列できるようになって
小学校の卒業式を迎えた。
泣いてる子なんて誰もいない、って思ってたら
おいおい泣く声が聞こえてきた。
「はるきくん、どうしたの?」
「みんなとお別れするのが寂しいんです!」
「そうなんだ、はるきくんはおわかれが寂しいんだね。」
大きな声をあげてずっと泣いている
はるきくんのおかげで
わたしたちの卒業は
「楽しかった小学校生活」みたいになって
ほんのちょっとだけ
良い感じになった。
はるきくんのおとうさんは世間の方を見ないで
はるきくんの方だけをちゃんと見ていた。
小学校へ行く支度をしている娘を見ていたら
ふっと、はるきくんのおとうさんのことを思い出して
朝ごはんを食べながら話をした。
「その頃はモンスターペアレントって言葉は無かったの?」
「モンスターペアレントのドラマがテレビで作られる前だから、
そんなの無かったのよ。」
「ママはモンスターペアレントって言われても平気でしょ?」
「平気よ。はるきくんみたいに、こどもは親に守られて楽しく学校に行けたほうがいいと思ってるから。」
「うん、そうだよね。」
本当にいるのかな、モンスターペアレント?
見たことがない!
もりやゆうこ【子育て相談室 根っこのこどもたち】